三島由紀夫は、伝統芸術である能楽集を現代的なシチュエーションに落とし込み近代能灯という形で作品化した。能楽の時を超越した空間に、情念と欲望の象徴である人物を登場させることによって、まるで夢と現実との間を行き来するような幽玄な世界へと誘い、人間の条件という普遍的な疑問−『愛、死』という能楽の本質的なテーマを問いただす。
三四郎、斉藤研吾、マダム・ワサビ、岡田小夜里
声の出演 : 橋爪淳 (スペシャルゲスト)
演出、振り付け、シナリオ脚色、動画:岡田小夜里
翻訳、字幕 : ヴァニナ・ルシアニ
演出補佐・井上弘子
作曲(熊野の歌):三四郎
アクセサリー:輿水美幸
衣装 : アルベール美奈子、アグラエ・プラエット、セラフ
音響: 加藤梨華
照明 : マルゴ・オリヴォー
班女
画家・本田実子は、自分を置き去った男・吉雄を待ち続けているうちに狂気に陥ってしまった美女・花子を家に住まわせている。しかし、花子の古風なロマンスが新聞記事になってしまう。花子の美しさを愛し、その美を独占し続けるつもりであった実子は、その記事がいずれ吉雄の目にとまり、二人が再会してしまうのではないかと恐れた。世間から花子を遠ざけるため実子は花子を旅行に誘うが…
卒塔婆小町
夜の公園、モク(煙草の吸殻)を集める老婆の浮浪者に、ほろ酔いの詩人が声をかける。詩人が、ベンチで抱擁している恋人達たちは生の高みにいると言うのに対し、老婆は「あいつらは死んでる。生きているのはこちらさまだよ」と言う。そのうち老婆は自分が昔、小町と呼ばれた女だと言い「私を美しいと云った男はみんな死んじまった。私を美しいと云う男は、みんなきっと死ぬんだ」と説明した。笑う詩人に老婆は八十年前、参謀本部の深草少尉が自分の許に通ってきたこと鹿鳴館の舞踏会のことを語り出す…
道成寺
古道具屋で骨董家具の競売が行われている。商品として出されたのは、巨大な洋風衣裳箪笥。何百着の衣裳を入れてもまだ余るほどの、とても巨大で高品質の衣裳箪笥であった。客が次々と高額で入札しているところへ、踊り子と称する清子がやって来て、その箪笥は三千円の値打ちしかないと言い放った…
熊野
美しい女・熊野(ユヤ)は、大実業家の宗盛に愛人としてかこわれ、豪勢なマンションで暮していた。ある春の桜の季節、宗盛は、美しい盛りのユヤを伴って花見をしたいとユヤを誘う。ユヤは断り、母親の病気を理由に、実家の北海道に帰らせてくれと願い出る。しかし、宗盛はユヤの申し出を聞き入れない…
葵上
美貌の若林光の妻・葵が入院している。看護婦によるとひどくうなされ苦しむ彼女のもとへ、毎晩見舞いに来るブルジョア風の女がいるという。しかし実は、毎夜葵を苦しめていたのは嫉妬心に駆られた、光とかつて恋仲であった六条康子の生霊であった…
演出の覚書き
1960年代中期から1970年代にかけて日本で活発に起きた演劇表現の潮流であったアングラ演劇の要素。実験的な舞台表現、近代演劇が低俗として退けた土俗的でスペクタルなもの等を取り入れて又、能楽の 幽玄を表す為に、時間軸の移動、異空間、夢想、情念の入り交じる独特な世界を創り上げたい。
この劇作品は、仮面、踊り、歌、画像、動画などを混ぜた五話の小作品からなる。